クライアントの課題解決はパートナーシップから
人の強みを引き出すAI時代のコーチング

ビジネスコーチ株式会社 代表取締役

細川 馨さん

気づきをもたらした義父の言葉と部下からの手紙

マネジメントのやり方を変えるきっかけは、どこにあったのでしょうか。

義父の言葉です。福岡に移ることになって、「お前は北海道のことしか知らないのだから、部下の話をよく聞きなさい」と言われました。この助言はありがたかったですね。赴任して最初の2ヵ月半は、20数人の部下と面談をしながらじっくり話を聞くことに専念しました。その後は部下たちとビジョンを共有しつつ、誰もが当事者意識を持って働けるマネジメントを実践していきました。

赴任して3年で売上は400%増になり、北九州や熊本にも新たな拠点ができて、部下は所長となって巣立っていく。こうした姿を見るのはうれしいものでした。しかし喉元過ぎれば熱さを忘れるもので、中部や四国エリアをまとめる営業部次長を兼務するようになってからは、再び自分の考えを押し付けるようになっていました。

そうしたとき、福岡の部下から1通の手紙を受け取ります。そこには、「昔の次長に戻ってください」と書いてありました。「最初のころは、親しみやすくてみんなの話をしっかり聞いてくれる、信頼できるリーダーだと感じていた。それなのに、今は非常に傲慢(ごうまん)だ」と。読み終えた途端、悔しさで体中の血液が逆流した感覚に襲われました。こんなに業績を上げているのに、何を言っているのだと。

家に帰ってからも怒りは収まらなくて、眠れなかったり、うなされて大汗をかいたりする日が続きました。心配した妻が「どうしたの?」と聞いてきて、最初は「話したくない」と突っぱねていたのですが、結局打ち明けてみることにしました。そうしたら、すごくスッキリしたんですね。話すことで冷静になって、自分に至らないところがあることに気づいたのです。

細川 馨さん(ビジネスコーチ株式会社 代表取締役)

まさにコーチングですね。

そう。手紙はフィードバックそのものでした。それからというもの、周りの人の話に耳を傾けるようになりました。一人ひとりが自発的にリーダーシップを発揮し、理想的な組織になったと思います。

ビジネスコーチングとの出合いは、いつごろだったのでしょうか。

九州での実績が認められ、東京に赴任してからです。銀座で支店長を務めていたころでした。福岡時代からお世話になっている知人から紹介され、当事者意識を持って動く組織づくりには有効だと感じました。コーチングスクールに通って資格を取り、自らもクライアントになってコーチングを受けました。コーチングを知れば知るほど、その面白さに魅了されていったのもこの時期です。

当時は金融機関が多々倒産し、不景気の真っただ中にありました。全社の業績は芳しくなく、また私は東京に来てからというもの、組織のあり方に課題があると感じていました。特に、採用と育成の仕組みが確立されていないことは問題だと思ったのです。どうすれば理想的な組織になれるのか。私はライバル会社にもヒアリングを重ね、それをもとに新たな営業組織をつくる仕組みをトップに提案しました。

新組織のマネジメントを任された私は、コーチングを頻繁に取り入れました。対話を繰り返しながら気づきを促し、時にはこちらからアドバイスすることで、どのチームもダイナミックに成果を上げていきました。しかし、取り組むのが遅かった。会社は2002年に外資に買収されます。それを機に、コーチングで起業することを決めました。

不安はなかったのですか。

もちろん不安だらけです。でも、妻に「保険の仕事は、もうやめたら」と言われたんです。妻は業績に一喜一憂し、常に悩み苦しんでいる私を見て、営業管理職でさえなければ、もっと幸せに過ごせているのではないかと感じていたのだそうです。

しかしその当時は、コーチングなど一般的ではありません。私が「起業する」と話したら、100人のうち99人は「NO」と言いました。それは当然です。ほとんどの人がコーチをやったことがないのですから。でも、一人だけ「細川さんなら、きっとうまくいくよ」と言ってくれた人がいたんです。それは、何度もヒアリングに応じてくれたライバル保険会社の支社長でした。彼は自社の仕組みを包み隠さず教えてくれた、恩人とも呼べる人です。彼のひと言は励みになりましたね。

それから、会社を辞めた後に元上司と昼食を食べて、池袋の公園で話していたときのことです。コーチングの話をしているときに、大きなカラスが私の上着の肩のあたりに大量のふんを落としていったんです。あまりの量で、上着をその場で捨ててしまうほどだったのですが、成功を確信した瞬間でした。「運がついた」と(笑)。これで気持ちが吹っ切れました。

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