ユーザー視点に立脚し、キャリアにプラスとなる新しい人材ビジネスのモデルを実現する

株式会社ディスコ

夏井丈俊さん

これからの新卒採用市場に向けて、新しいサービスを展開

 ところで、現在の採用市場については、どのようなお考えをお持ちになっていますか。

新卒・中途とも非常に活況を呈しています。これから先の成長を考えて人材を確保しなくてはならないので、企業の採用意欲は高まっています。その中で、新卒採用について言えば、政府の意向を受けて経団連が3月の採用広報開始、8月の採用選考開始とのガイドラインを示しました。世の中の全ての企業がこれに従うかと言えば、そんなことはありません。

これは以前から言い続けていることですが、企業サイドが「就職協定」の類を作ってはいけないのです。企業サイドでそうしたルールを作っても結局、守らないからです。それよりも、影響力のある大学が、「何月までは学生に接触しないでほしい」と主張することが必要です。アメリカの有力な大学は、MBAの1年生に対して接触しないよう、企業に求めています。一方で、「いつでも接触してきて構わない」という大学があってもいいと思います。大学の置かれた状況に応じて、いろいろな就活のあり方があるわけで、我々はそれを応援していく立場だと思います。

現在、新卒採用を取り巻く環境は非常に混乱しているので、学生がかわいそうです。3月~8月という短期間で就職先を決めなくてはなりません。しかも、建前上はこの時期は選考できないわけで、会社説明会ばかりが開催されることになります。いずれにしても、選択肢が多ければ多いほど選択することが難しくなり、かえって混乱するばかりです。

昔は企業と大学が求人票だけでつながっていたクローズドの世界でした。その後、就職情報産業が求人メディアを作ることによって、求人の応募をオープン化することになりました。学生が自分からいろいろな企業に応募できるようになり、大きく進展しました。ただ、この時はダイレクトメールの時代。上位校だけのメディアとか、ターゲット校だけに求人情報を送るとか、限られた範囲の中での求人であり、半分オープン、半分クローズドというような状態でした。

ところがインターネットが登場したことで、状況が大きく変わりました。誰もがあらゆる企業の求人情報を見て、応募できるようになったのです。完全なオープン化。すると、行き過ぎた公平さが出てきます。皆がどの企業にも入れるのではないかという、幻想を持つようになりました。今までは、ある程度の「相場観」のあるマッチングが図られてきましたが、完全オープン化の下、就職サイトに1万何千社もの求人広告が掲載されていたら、応募者にとって何が何だか分からない状況が起きてしまいます。

 企業も、求める要件とは合致しない人材の応募を、受け付けることになりますね。

夏井丈俊さん インタビュー photo

こうした混乱した状況の中で、我々が開始したサービスは、学生が自分にフィットした企業に効率的にアプローチをしていくためのサポートです。私がアメリカから日本に戻ってきた2008年から「UniCareer」という仕組みをスタートさせました。これは企業が大学に対して求人票やインターンシップ情報をWebで無料提供できるサービスです。

大学ごとに求人票のフォームが異なると、事務作業が非常に煩雑になります。それを統一のフォームにして、一括で送信できる仕組みを作ったのです。現在では、ほとんどの大学で送受信してもらえるほどのネットワークを構築しています。このサービスを就職メディアの中に検索の仕組みとして導入しました。これにより「相場観のあるマッチング」が実現できます。

そもそも、求人票は一つの相場観を形成しているものです。大手企業も「有名大学以外の大学から学生を採用しない」とは、表向きでは言いません。しかし、採用実績がないのなら、採用する意思はないと考えたほうが自然です。

一方でどの大学にも、2000~3000社からの求人が来ています。これらの企業の採用意欲は非常に強いのです。またこの中には、先輩学生が実際に就職した企業が相当数あります。求人票を送ってきている企業は、その大学の学生にとって、応募する価値のある企業ということになります。大学に来る求人票は、相場観のあるマッチングに一役買っているのです。

 大手企業にいくらエントリーシートを出しても通らない、会社説明会に何度出ても抽選で外れてばかりいるようなことが多々あります。何度も落ち続けることで、就職に対する気持ちがだんだんとなえてしまっています。

「UniCareer」は、企業が求人票やインターンシップ情報をWeb上で配信し、大学が学生に公開する、当社独自のASP型のサービスで、求人票にエントリー受付画面を設定することができます。ですから、企業はエントリー受付画面付きの、求人票を配信することで、学生の応募データをWeb上で管理することができます。一方、大学側も求人企業ごとにエントリー数の把握ができ、そこから、さまざまなキャリア教育・キャリア支援コンテンツを展開できるようになります。こうしたサービスは当社独自のものであり、何年もかけて構築してきた大学と企業をつなぐインフラです。

私が考えているのは、企業、大学、そして我々のような人材サービス会社が三位一体となった形です。三者のステークホルダーが良い形で存在していくことです。それに対して、就職サイトの世界は、そうではありません。就職サイトの出現により完全オープン化となったことで、三者とも良い形を作れていないのです。

 大量のエントリーをむやみにあおるから、学生が混乱するといった世論も出てきました。たくさんの企業を掲載すればするほど、やみくもに大量のエントリーだけさせることになってしまい、学生・企業の双方にとって意味のない事態が生じています。

現在、求人広告の効果の尺度が単純に「エントリー数」になってしまっています。本来、求人広告は、フィルターをかける広告です。つまり、自社の良い面も悪い面も見せる。それをわかった上でエントリーしてきてもらうものです。求人広告において、よく見もしないで一括で多くの企業にエントリーさせるといったことは、全くナンセンスだと思います。私たちは、この世界から脱却したいのです。

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