HR業界TOPインタビュー「人・組織」ビジネスを牽引する希代の経営者

株式会社 アドバンテッジ リスク マネジメント 代表取締役社長

鳥越 慎二さん

「予防」に着目した「メンタリティマネジメント事業」で
社会性とビジネスのバランスを追求する

(2015/4/17掲載)
鳥越慎二さん
1995年にGLTD(団体長期障害所得補償保険)のマーケティング事業を中心に創業した株式会社 アドバンテッジ リスク マネジメント。GLTDの普及に尽力する一方で、企業からの要望に応える形で、メンタルヘルスケア分野にも進出しています。GLTDと企業のメンタルヘルス対策支援で、これまで100万人を超える人々に活用されたトップシェア企業です。2006年には、同業種では初の上場を果たし(JASDAQ)、「『安心して働ける環境』と『活力ある個と組織』を共に創る」を企業理念に、新規事業も積極的に展開中。そんな同社をけん引する創業社長・鳥越慎二さんに、事業への思いや業界の今後についてのお考えなどを伺いました。
プロフィール

鳥越慎二(とりごえ・しんじ)●1986年、東京大学経済学部経済学科を卒業し、米国系戦略コンサルティング会社ベイン・アンド・カンパニーに入社。ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院にてMBAを取得(財務管理・マーケティング戦略専攻)。1994年、株式会社アドバンテッジパートナーズに参加し、同社パートナーに就任。1995年、株式会社アドバンテッジインシュアランスサービスを設立、代表取締役社長に就任し、1999年同社を株式会社アドバンテッジ リスク マネジメントとし、現在に至る。

起業を模索する中で出合ったGLTD(団体長期障害所得補償保険)

―― 鳥越社長は、もともと外資系戦略コンサルティング会社のベイン・アンド・カンパニーでコンサルタントをされていましたが、どのような経緯で起業されたのですか。

実は学生時代から、いつかは起業したいと思っていたんです。新卒でベイン・アンド・カンパニーに入社したのも、経営を勉強したかったからです。しかし、実際にコンサルタントになってみると、単なるアドバイザーで、時間単価は高いけれど、事業が成功したからといって余計に報酬をもらえるわけではありません。また、事業へのアドバイスはできても、当然、意思決定は経営者が行います。主体者にはなれないため、不満がたまっていきました。やはり自分で会社を経営したい、自分でリスクを取り、リターンを自分で得る事業を手がけてみたいと思っていました。私の場合は、どのような事業を手がけるかというテーマは特になく、「起業したい」という気持ちが最初にあって、何か事業の核となるものはないかと探していました。そういう意味では、事業は何でもよかったのです。

―― GLTD(団体長期障害所得補償保険)とは、どうやって出合ったのですか。

きっかけとなったのは、日本経済新聞に掲載された「GLTD(団体障害所得補償保険)が日本で認可され、アメリカのユナムというトップ企業が日本に進出してくる」という記事でした。

その頃、ベイン・アンド・カンパニーで同僚だった二人が、それぞれ一つずつ事業を立ち上げていくという構想の、一種のインキュベーションを行うアドバンテッジパートナーズという会社を始めていました。起業したかった私は、その同僚に何か良さそうな事業があったら教えてほしいとお願いしました。そこでいくつかヒントをもらった中で、送られてきたのがその記事だったのです。GLTDのことはまったく知りませんでしたし、保険のことに興味があったわけでも詳しかったわけでもありません。ただ、「こんな制度があったら自分も入りたい」と思い、興味を持ちました。

GLTDは、病気などの事情で長期間働けない人のために、所得などの面でサポートを提供する保険です。アメリカでは一般的で、大企業はほとんどが加入している制度だったのですが、日本にはまだそのような保険はありませんでした。亡くなった場合は保険金が支払われますが、亡くならず長期に働けなくなると、日本では何も保障がない。そのため、GLTDは個人的にも「目からうろこ」の制度でした。しかも、アメリカで普及していたので、日本でもこれから普及するだろうと考えました。

折しも、1994~95年の頃は、金融自由化が叫ばれていて、これから保険も自由化されるだろうといわれていました。保険は典型的な規制産業ですが、ある程度自由化されれば参入の余地が出てきます。自由化すれば、大きい組織ができないことでも、新しい組織なら手がけるチャンスがあるのではないかと思ったわけです。しかも、保険は資産がなくても始められ、設備投資も不要で、参入しやすいと考えました。

そこで早速、アメリカのユナム社にコンタクトをとり、「日本での参入計画や戦略を立てませんか」と売り込んで、最初はコンサルティング業務を受注しました。その業務の中でいろいろ調べたりインタビューしたりして、戦略を立て、「GLTDを実践する会社を立ち上げたいと思っているのですが、どう思いますか」と提案し、実現したというわけです。

―― 戦略を立てる過程で、この事業の勝算が見えたということでしょうか。

GLTDは、個人向けではなく、法人で加入していただく損害保険制度です。働けない従業員が困らないために、会社が福利厚生制度の一つとして、お金やその他のサポートをする。福利厚生制度ですから、受け取る人がいい制度だと認識してくれれば効果があるわけです。この保険のメリットは、従業員に対する想いやメッセージが含まれていることです。単に「スポーツクラブを利用できます」「語学を勉強できます」という福利厚生とは違って、「我が社は社員が働けなくなったときにもずっと面倒を見てくれる制度に入っています。それほど従業員のことを思っていますよ」というメッセージが、従業員に伝わるわけです。

鳥越慎二さん インタビュー photo

1990年代はちょうど実力主義や実績主義が急速に進み、会社と従業員の間がぎくしゃくして関係も希薄になり始めていた時期です。この制度はきっと、そんな関係の修復に役立つに違いないと思いました。実力主義や実績主義で給料の差は出てくるけれど、それは健康な人の場合で、働けなくなった人には、会社は優しく手を差し伸べる。そう示すことで、会社の従業員に対する想いが伝わるのではないかと考えました。

実際、いくつかの大手企業の人事部長の方々に話をすると、皆さん口をそろえて非常にいい制度だと言ってくれました。「確かにその部分は今までカバーできていなかったし、従業員もきっと喜ぶと思う。良いところに目を付けてくれた」と。それでこの事業を始めたわけです。

―― では順調に事業のスタートを切ることができたのでしょうか。

それがそうもいかなかったのです。良い反応を示してくださった大手企業に、「事業を始めたのでぜひご検討を」と営業に行くと、「個人としては非常にいい制度だと言ったけれど、会社としてお金を出すかどうかはまた別の話だ」と軒並み断られてしまう。しかも、そもそも損害保険商品は、系列の損保会社があるので、導入するとしてもそこを通すことになると言われ、そんなことも知らなかった自分に愕然としました。

最初半年位は、大手企業にひたすら営業に行っていました。でも当時は阪神淡路大震災やサリン事件などが起こった時期で、会社は今それどころじゃないと怒られ、ようやく落ち着いてきても、お金は出せないと言われ……。どうすれば事業をスタートできるかと、とにかく知恵を絞りました。

まず一つは、アメリカでは普及している保険なので、外資系に営業すればいいのではないかと考えました。ところが、外資系に行って話をしても、最初は知らないわけです。そこで、「とにかく本国に問い合わせてみてください」と食い下がる。すると電話がかかってきて、「本国は確かに導入していました。日本では入っていないといったら、すぐ入れと言われました」と。そこから外資系を中心に売れ始めました。でも、もっと広く、日本の大手企業にも利用してもらうために、何かないかとさらに知恵を絞りました。

そもそもGLTDは、従業員にとって、「わかりやすくて良いもの」です。そこで、従業員のことを一番考えているのは、労働組合ではないかと考え、労働組合へアプローチを始めました。すると、かなり上層部の方、委員長クラスの方が会ってくれました。そんな方々からすると、当時の自分は30代そこそこの「若造」です。「若造が何か頑張っているぞ、手伝ってやるか」と思ってくださった。そうしていくつかの組合の方々が同意してくれました。中には組合費から保険料を出してくれたり、組合の取り組みとして募ってくれたり。春闘で賃金が上がらなくなってきた時期でしたので、組合からの要求として本社に出してくれるところもあるなど、徐々に売れていきました。

GLTDに関しては、爆発的に伸びたということはないのですが、順調に伸びているという実感があります。業種問わず、従業員のやる気やリテンションが重要だと考える企業が一定割合必ずあって、ずっと続けてくださって、じわじわと広がっていると感じています。


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