NPO法人 人材派遣・請負会社のためのサポートセンター 提供記事
【講演集】これからの人材ビジネスのあり方を展望する

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人材サービス業界の健全な発展と業界で働く人たちの社会的地位向上のために活動する「NPO法人 人材派遣・請負会社のためのサポートセンター」。同NPO法人は、その活動の一環として、派遣制度、派遣労働に対する正しい理解と正当な社会的評価を得るため、『派遣・請負問題勉強会』を毎年継続的に開催している。

2010年は、労働者派遣法改正案が提出される中、“派遣法改正論議の背景となる日本の社会情勢、経済環境をどう見るべきか”と“提出されている派遣法改正案自体をどう捉えるべきか”の二つのテーマについて、それぞれの専門家による講演が行われた。合計5回10名の講師による講演録をまとめた冊子が、2011年8月に発行。その中から今回は、2010年10月19日に行われ、勉強会のまとめとなった、法政大学大学院政策創造研究科教授の諏訪 康雄( すわ やすお)氏の講演のレポートを掲載する。

「労働市場の変化と人材ビジネスの今後のあり方」
疲弊しつつある地方の活性化、雇用問題に対し、人材ビジネスが貢献していくことも、今後人材ビジネスが社会的評価を受ける一つの試金石

環境の変化と職業の増加

ここ20年、情報化、知識社会化、グローバル化、少子高齢化などの動きが、日本の現場を大きく揺さぶり、労働市場とビジネスを変えています。これらによって雇用が変り、それに係わるサービス業も今後は変化をしていくでしょう。本日は、こうした労働市場の変化と人材ビジネスのこれからをご一緒に考えてみたいと思います。

先頃、ギリシアのソブリン・リスクから始まり、ヨーロッパ各国、特に経済的に良く見えていた国が、実は足元がぐらついていたことがわかりました。ポルトガル、アイルランド、イタリア、ギリシア、スペイン、主にPIIGS(ピーグス)と呼ばれている国々が問題だといわれています。例えば、スペインの失業率は20%にもなっています。

そのスペインに、オルテガ・イ・ガセットという20世紀を代表する有名な哲学者がいました。著書『大衆の反逆』は、1930年、丁度ファシズムが広がりつつある大変不安定な社会状況下に出版され、世界中でよく読まれました。その中で彼は、「我われを取巻く周囲は普通、“環境”と呼ばれている。生とは全て“環境”つまり世界の中に自己を見出すことである」と述べ、生の哲学の流れにくみした見解を打ち出していました。我々は二度とない人生をこの“環境”の中で送り、そこで自己をつくり、見いだしていくことが重要であるというものです。その自己の見出し方の中に職業があるわけで、この職業について彼は、「原始時代にあった職業は、牧者、狩人、戦士、魔術師など、ほとんど五指にも満たなかったのに、今日では可能な仕事の数は極端に多くなっている」とし、職業がどんどん増えていっていると指摘しました。

では、世界中に職業はどのくらいあるのか?正確に数えることはできませんが、日本でだいたい1万位の職種があり、そのうちの500位の職種に9割の人が従事しているといわれています。世界で見るとおそらく3万位あるのではといわれております。ともかく、こうした環境が絶えず動き、新たな職業が生まれ古いタイプの職業が消えていくというのが、20世紀に我われが目撃した変化です。21世紀に入り、その変化はますますスピードを増してきています。

変革期の現在、日本の雇用構造が抱える問題と人材ビジネスが取組むべき課題

こうした変化の時期は、求められる知識や技術・技能の水準程度、或いは性格が大きく変っていくため、我々人間にとってはかなり辛いところがあります。我々が近代において経験した最も大きな変革は、江戸から明治に時代が変った時です。江戸の武士は、漢文と儒教を勉強し、その知識を使いながら、江戸の幕府を支える官僚体制を作りました。また、同時に剣術や馬術や弓術を学びながら職業展開をしていました。しかし、明治になると、漢文や儒教は顧みられることが少なくなり、官僚らにとって西洋語学と洋学こそが不可欠だとなりました。また、武士に取って代わった軍人の場合、西洋語学と砲術が必須となり、「飛び道具とは卑怯なり」といった感覚だったものが、飛び道具を上手く使うことが重要だとなる。これに匹敵するような大きな変化が今、我われを襲おうとしているのではないかと多くの人は感じているわけです。

このような大きな変化は、子供の時に起きたなら何でもありません。子供ならこれから新しいものを学んで、そしてそれに対応していけば良いからです。ところが、日本は少子高齢化が進み、これから20年くらいの間だけで約1000万人の労働力人口が減少していく可能性があります。総人口数は大きく変らなくても、人口構造はものすごい大きな変化が起きます。すなわち、日本全体で見ると、中高年が働く人の主流になるため、このような知識や技術・技能の急速な変化は、ついていくことが非常に辛い状況になっていきます。

こうした変化の時代には、自然な世代交代のリズムと、現実の技術変換、或いは産業構造の変換、雇用構造の変換などの速度との間で、ギャップが大きくなってきています。その結果、国民の多くがいくつになっても学び続け、変化に対応できるという人材になっていかないと、流れについていけなくなり、とても苦しい思いをしそうです。

ここに、人材ビジネスの可能性があります。今までは20~30代の若年層を中心としたビジネスターゲットだったのが、日本国内ではおそらく中高年こそが新たなターゲットとなると思います。今は、その移行時期ですから、変化対応力を高めていく、或いはその生涯学習を進めていけるような方向で事業を考えていくべきです。更には70歳近くまで、戦力として働き続けることができる事業を、どのように増やしていくか、それにどう寄与していくかが人材ビジネスの大きな課題となるでしょう。

時代の変革期で考慮すべきこと

さて、こうした変革期にはどこの国でも変革に対する抵抗運動が起きます。例えば、産業革命のときに今まで苦労して身に付けた伝統の職業、職人技が機械にとって変られて、あっという間に仕事が失われていく。或いは仕事の単価が落ちていくという技術革新の際立った厳しさに直面した人たちが、機械打ちこわし運動(ラダイド運動)をしたものです。ではそれはいかなる効果を生んだのか。やはり、産業革命の大きな波を変えることはできなかったわけであります。そして、機械打ちこわし運動の主軸になった人たち、一番頑張った人たちほど、新しい変化に対応が出来なくなってしまいました。

いずれにしましても、こういう騒動が何を我われに教えているかというと、変革期に必ず見られる「効用と痛み」を関係者間でどのように配分すべきかの問題であり、とりわけ、痛みの部分であるコストを関係者間にどう適切に配分すべきかが重要です。このあり方がよくないと、激しい抵抗運動が起きます。

例えば人材派遣の場合、能力開発がどうしても手薄になりがちですから、キャリア形成やその支援を、どんなかたちで行っていけるのか。それから、処遇における均衡、平等待遇の問題も当然に重要な課題です。また、ある年齢に達した時のキャリア転換も、難しくなってくる。これをどのようにカバーしていくかも問題です。

人材ビジネスが今後負うべき役割

従来、能力開発は、企業が正社員型の人たちに行ってきました。少子高齢化以前は将来の経済発展を前提として、余分に正社員を雇い、若い人たちを訓練していこうとするのが自然でした。ところが、その時代は終わり、日本の市場は、ゆっくりと縮小していくだろうということが、これはもう客観的事実です。そのうえ、企業の先行きが不透明で、ビジネスモデルの変化や、技術革新によって、突然、状況が大きく変ります。

大きな変化の中では、企業が余分に人を雇い、訓練していくことが難しくなっています。訓練費も落ちていきます。しかも、企業はコストが安いといって非正規労働者を増やしてきました。今、労働者全体の1/3が非正規社員です。いつまでも雇うとは限らないので、企業が本格的な職業訓練は行わない。更には雇用保険にも未加入だという事態もかなりあって、雇用保険を原資にする職業訓練も対応できませんでした。

こうして、非正規社員という人たちの人的資源の水準が、劣化の途を辿るのです。「鉄は熱いうちに…」と言いますが、熱いうちに打たないままに時間が次々と去っていきました。これからは「コンクリートから人へ」という政策方針がでておりますが、こうした教育訓練のあり方にも本格的なテコ入れをしていけるかどうか。ようやく一部の失業者に対し、生活補償と職業訓練を組み合わせる方式が行われ始めましたから、今後、本格的に行われるようになっていけば、これはまた、人材サービスにとって大きな責任とビジネスチャンスが生まれるでしょう。

さらに具体的な職業訓練を考えると、ただ闇雲に職業訓練を行えば良いわけではなく、当然、適性・能力に合わせて本人の意欲を汲みながら行なっていかねばなりません。例えば、イギリスのキャリアアドバイザー、或いは日本のキャリアコンサルタントが、個人ごとのジョブカードにカルテを書いて、それに添った一定の訓練をしていく。北欧型では半年~1年、場合によっては2年くらいかけてじっくりと訓練をしていきます。

一方、中高年の職業転換の場合には、その財源をどこに求めるのかが大きな問題となりますが、財源が出てきた時には人材ビジネスにとって、大きな市場が広がるでしょう。なぜなら、OECD諸国の中で最低クラスである日本の職業能力開発にかける公的資金なので、ここに発展性があるからです。例えば、OECDの平均レベルまで発展するだけで、巨額の人材開発資金が注がれていくと考えられるからです。これまでには充分に開拓されていなかった中高年の再活性化プログラムをどのように作っていくか。或いは、中年になりつつあるフリーター層の正社員転換問題も、業界では重要なビジネス機会になっていくのだと思います。

今日の能力開発の課題をまとめますと、変化の速度と程度が問題です。キャリア展開のサイクルは、若い頃に基本的な能力を付けて、そしてそれを時どき能力再開発をしながら、約半世紀近くも職業生活に対応していく。したがいまして、変化の速度が我われの生物学的な変化と同じような速度で進んでいってくれるならば、多くの人はそんなに心配する必要はありません。ある世代がいなくなったところで古いタイプの技術や産業もまた消失しますが、新しい世代は別の新しい仕事に就けるというのならば、何の問題もない。ですが、技術革新やグローバル化は変化の程度を思いもかけない方向へ革命的に変えてしまう。或いは、その速度がグローバル化ですさまじくなる。

こんなように、グローバル化、技術革新による変化が激しくなってきますと、人びとは対応にもすごく戸惑い、時代の波に取り残されたり、飲み込まれたりしてしまう人たちが多く出ます。従来なら、公共事業などの官製の対応策があれこれ図られましたが、今や財政がひっ迫しており、また、役所に未来が見通せるとも限らないといわれ、民間と公共の協業がしきりに指摘されます。資金の一定の部分は公的に支出せざるを得ませんけれども、能力開発事業を実際に担うのは民間部門が主体であり、時代の先を見通そうとする民間部門が教育プログラムを作って訓練をしていくことがむしろ好ましいといわれていて、ここでも人材ビジネスの役割の出番があります。

今後の人材ビジネスへの期待

さて、今年は人材ビジネスにとって、素晴らしい研究がノーベル賞を受けました。人が会社を捜している時、または、会社が人を採るときには、それぞれの優先順位で行っていく結果、そこには必ずギャップ、落差、タイムラグが起こり、ミスマッチが生まれることを、理論化して説明したサーチ理論が高く評価されたのです。人材ビジネスが持つ、非常に重要な役割が、改めて示されることになったわけです。

教育訓練、生涯学習、マッチング、中高年の活性化などの課題に、人材ビジネスがどのような役割を果たしていけるのか。或いは、人的資源開発をめぐり国の公共政策資源をどう充実させていき、或いは公共政策資源を国からどのように得ていくのか。例えば、法人税の減税政策をするときに、雇用に理解のある企業を優遇するとしていますが、重要なのは単なる雇用維持だけではなく、キャリア展開に寄与をしていた等、その形成に気鋭な企業にこそ、手厚く対応していくべきでしょう。1%~1.5%のプラス型の訓練税を浅く広く掛け、訓練を行う企業には補助金を給付し、そうでなければ徴収する。例えばネット上に訓練のシステムを作る資金等に充てたり、現実の生涯学習を進めたりする仕組みを考えていくことで、今後の日本のビジネスに、可能性が広がっていくことでしょう。また、疲弊しつつある地方の活性化、雇用問題に人材ビジネスがどう貢献していくのかも、実は世間から業界が的確に評価されるかどうかの試金石になるのだと思います。その関係では高い専門性、倫理性、或いは社会関係を処理していく力、コーディネーター、プロデューサー力を持った人材ビジネスの発展が望まれるものだと考えています。

東日本大震災の雇用への影響と対応策

※「東日本大震災の雇用への影響と対応策」震災による雇用問題に対する緊急提言と2010派遣・請負問題勉強会講演集(NPO法人 人材派遣・請負会社のためのサポートセンター)より転載

■講演集のお申し込みはこちら⇒http://www.npo-jhk-support119.org/theme9.html



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