―― 人材サービス産業に関わる4団体が集まり、人材サービス産業協議会が一般社団法人として発足しました。設立の背景、理由についてお聞かせください。
中村:昨年、「人材サービス産業の近未来を考える会」を四つの協会(全国求人情報協会、日本人材紹介事業協会、日本人材派遣協会、日本生産技能労務協会)で立ち上げ、共同宣言と五つのテーマへの取り組みについて発表しました。実は、同じような活動を10年前の2002年にも「労働市場サービス産業の活性化のための提言」という形で行ったのですが、今回は宣言で終わるのではなく、具体的に行動を起こそうとしている点が大きく違っています。
五つのテーマは4協会にかかわる横断的なものなので、協会ごとに活動するというより、四つの協会が会員となり、新たな組織を立ち上げることが必要でした。また、「人材サービス産業の近未来を考える会」のような組織ではなく、新たなプロジェクトを立ち上げて進めていくことに力を入れます。労働市場におけるさまざまな調査、政策の提言などを行うにあたり、財政基盤がないと難しいということもあり、4協会の理事の賛同を得て、2012年10月に一般社団法人化しました。
―― お互いにライバル企業でもある中、四つの団体が集まることによるシナジー効果として、どのようなことを期待していますか。
中村:ライバル企業同士が同じ協会の中で活動することは、人材サービス産業協議会に始まったことではありません。既に、四つの協会で行われていたことです。各協会がそれぞれの問題意識の中で課題に対応していました。
例えば、全国求人情報協会は、求人情報の適正化をテーマに活動しています。各社が独自の掲載基準、必須項目などを持つ一方で、協会として最低限守るべきガイドラインを作りました。その目的は読者の保護です。正しく適正な情報を提供するという意味で、これは皆の共通の命題だからです。この点でのコンセンサスを得た上で、各社が活動を進めていくことになります。
さらに、協会への参画企業を拡大しています。一般的に、最初に入会した時は協会が要求する基準に満たない企業が多い。しかし、協会に入ることによって、その基準をクリアするためのノウハウを伝授する勉強会、協会内における資格試験などを受けることができます。入会してすぐには対応できないものの、時間をかけて学んでいくことにより、おおよそ1年以内で協会が求める基準をクリアできるようになります。
―― 会員企業が増えていくことで、ガイドラインを守る企業が増えます。そして、お互いが切磋琢磨する中で、各企業の人材の質が向上し、業界としてのプレゼンスが上がっていくわけですね。
中村:法規制を守るのではなく、自主規制を行うのが基本スタンスです。人材派遣や人材紹介は許認可事業ですが、求人広告や請負の場合はそうではありません。一方で、憲法では言論の自由が認められています。そのような中で読者保護の観点から、求人広告会社は自主規制を設けているのです。こうした活動を通じて業界全体の適正化を図り、信頼を獲得することを目指しています。
高橋:雇用の問題が連日連夜、これほどまでにマスコミの話題になったことは記憶にありません。人材サービス産業に身を置く立場として、当然、雇用の問題の解決に向けて動かなければなりません。各社が自由競争の中で活動することは大切ですが、一方で新しい役割が社会から要請されている時に、4団体が連携してさまざまなことを協議していくのは非常に有益なことです。
各社が独自にサービスを提供すれば、一部のクライアントや特定の個人をサポートすることができるかもしれません。しかし、国や地域全体で考えた場合、果たしてそれで効率がいいと言えるでしょうか。例えば、地域の雇用問題やクライアントの問題を解決しようとする時には、特定の人材領域だけではなく、全体としての需給調整を図っていくことが我々の大きなミッションとなります。ある特定のサービスだけでは、今後対応できない問題が多くなるでしょう。実際、多くの人材サービス会社が複合化しています。これまで派遣単業だったのが、人材紹介業や求人広告業にも進出するケースが増えています。多様な選択肢やソリューションを提供していく必要があるわけで、そういう点からも人材サービス産業協議会には大きな意味があると思います。実際、賛同してくれる企業も非常に増えています。
また、個人が仕事を探す場面でも、求人広告を見て仕事を選ぶ、派遣会社に相談する、あるいは人材紹介会社に相談する、など多様なサービスが利用され始めています。それが求職者、そして求人企業のニーズなのです。ワンストップでのサービス展開が求められています。