HR業界の注目情報掲載日:2012/08/23

2012年10月、「一般社団法人 人材サービス産業協議会」が設立
―業界4団体が連携して取り組むプロジェクトとは―

(プロローグ)
2011年6月に全国求人情報協会、日本人材紹介事業協会、日本人材派遣協会、日本生産技能労務協会によって設置された「人材サービス産業の近未来を考える会」が、2012年7月、本格的に始動。2012年10月1日には「一般社団法人 人材サービス産業協議会」として発足することになりました。同協議会は、複雑性を増す労働市場のなかで、いかに就業機会を生み出すか、また、「人材サービス産業」として企業ニーズ、就業者ニーズ双方を満足させるマッチング技術をどのように養うか、といった課題に取り組むことを目的とした団体です。労働市場における課題とは何なのか、また、その課題に「人材サービス産業協議会」がどう関わっていくのかなどについて、同協議会理事長である中村恒一氏にお話をうかがいました。

プロフィール
中村 恒一さん
中村 恒一さん
人材サービス産業協議会 理事長 株式会社リクルート取締役相談役

なかむら・こういち/1981年株式会社日本リクルートセンター(現株式会社リクルート)入社。採用開発部部長、中央営業部部長、代理店事業部事業部長、首都圏人材総合サービス事業部事業部長などを経て、99年取締役、2000年執行役員、01年常務執行役員、03年取締役兼常務執行役員、04年取締役兼専務執行役員、08年取締役兼副社長、12年取締役相談役に。全国求人情報協会常任委員長も務めると同時に、12年7月に発足した人材サービス産業協議会理事長に選出された。

「提言」だけでは終わらない。
「解決すべき課題への取り組みを強く推進」するための協議会

初めに、「人材サービス産業協議会」についてご紹介ください。

労働市場における企業と個人の仲介役=いわゆる「需給調整機能の担い手」には、ハローワークなどの公的機関と、求人広告・職業紹介・労働者派遣・請負といった民間事業者があります。私どもはこれらのうち、後者を総称して「人材サービス産業」と呼んでいます。

「人材サービス産業協議会」は、今後ますます複雑さを増す労働市場のなかで、どのように就業機会を創出し、企業と人材のマッチングを行うかといった問題に取り組むための団体です。全国求人情報協会(全求協)・日本人材紹介事業協会(人材協)・日本人材派遣協会(派遣協)・日本生産技能労務協会(技能協)という四つの業界団体が連携して、労働市場における課題の解決に当たることを目的としています。

人材サービス産業協議会の理事
理事
全求協 中村恒一(常任委員長・リクルート)
鈴木孝二(理事・エンジャパン)
派遣協 家中隆(会長・東京海上日動キャリアサービス)
高橋広敏(副会長・インテリジェンス)
人材協 佐々木和行(会長・トランサーチインターナショナル)
水谷智之(副会長・リクルートエージェント)
技能協 清水竜一(会長・日総工産)
青木秀登(理事・ランスタッド)
有識者 佐藤博樹(東京大学大学院教授)
今野浩一郎(学習院大学経済学部教授)
大久保幸夫(ワークス研究所 所長)
戸苅利和(法政大学大学院客員教授)
監事
安西法律事務所 安西愈
高井・岡芹法律事務所 岡芹健夫

4団体が連携するのは初めてのことなのでしょうか。

いえ。全国求人情報協会、日本人材紹介事業協会、日本人材派遣協会の3団体でしたが、10年前にも「民間の活力と創意を活かした労働市場サービスに関する研究会」として、調査・研究を行っていました。2002年3月には、『労働市場サービス産業活性化のための提言』という活動報告も発表しています。

この提言は、(1)労働市場サービス産業の現状(2)転職者からみた入職経路の分析(3)公共職業安定所のコスト分析(4)海外事例(5)2010年の雇用構造予測の五つの切り口で構成したものです。幅広い視点から調査・研究したものでしたが、「提言」で終了し、具体的なアクションには至りませんでした。これが、人材サービス産業協議会を設立する背景の一つとなっています。

10年前の活動を踏まえた上での「人材サービス産業協議会」の設立なのですね。

正確に言えば、「人材サービス産業協議会」の前身として、2011年6月に「人材サービス産業の近未来を考える会」を発足しています。そこで改めて労働市場を分析し、次の10年に向けてどのような対策を取るかを協議しました。「解決すべき課題への取り組みを強く推進していくため」に設置されたのが、「人材サービス産業協議会」です。また本協議会では、官民パートナーシップを推進。官民が一体となって労働市場における課題について意見を交換する、ラウンドテーブルの設置を公的機関に働きかけていく予定です。

ご参考までに、課題を洗い出すまでの調査結果は、『より多くの人々に多様な就業機会を――2020年の労働市場と人材サービス産業の役割』(2011年11月発行)として冊子にまとめ、「人材サービス産業4団体共同宣言」を発表しています。

労働市場の現在・過去・未来を見据えて着目すべきは
「有期雇用者の増加」と「労働市場の非流動性」

人材サービス産業協議会が取り組む課題についてお伺いする前に、日本の労働市場の現状を教えてください。

着目すべき点は、大きく分けて二つあります。一つ目は、「有期雇用者」が想定していた以上に増加していることです。1985年から2010年までに、雇用者数は全体で1112万人増加しました。その間にはバブル崩壊やIT不況などもあり、2007年をピークに減少していますが、それでも、これだけ増えています。正社員と非正規社員を比較してみると、正社員は1997年をピークに減少。1985年から2010年では12万人の増加に留まりました。一方、非正規の労働者数は657万人から1755万人に達し、1000万人以上増加しました。割合で見てみると、1985年に8割を超えていた正社員が、2010年は約6.5割に減少。逆に言えば、非正規の有期雇用者がいかに増えているかがお分かりになるでしょう。

■雇用者数の推移(1985~2010年/役員を除く)

※出所:総務省「労働力調査」
(人材サービス産業の近未来を考える会『2020年の労働市場と人材サービス産業の役割』掲載)

二つ目は、労働市場における人材の流動性が、いまだに高まっていない点です。これは、「内部労働市場」の強さ、言い換えれば、日本特有の雇用モデルの根強さを表しています。

「内部労働市場の強さ」については、多くの有識者の方々も着目し、新卒一括採用、終身雇用、年功制、職能資格制度、解雇規制の見直し、あるいは、労働市場を活性化させるための施策や、健全な労働市場を作るための法的規制緩和と自由競争の促進の必要性など、さまざまな意見を表明しています。

「失われた10年」、あるいは「20年」といった言葉もありますが、労働市場に関しても同様で、今の状態があと10年続くと、日本の産業の生産性はより低いものになるでしょう。

「キャリア形成支援」「キャリアチェンジ」
「人材育成」の課題を解決するために、
プロジェクトスタート

そうした現状の中、今回人材サービス産業が取り組む課題とは何でしょうか。

「人材サービス産業4団体共同宣言」で掲げている「人材サービス産業が取り組む五つのテーマ」は次の通りです。

【人材サービス産業が取り組む五つのテーマ】
1.マッチング・就業管理を通じたキャリア形成の支援
2.採用・就業における「年齢の壁」の克服
3.異なる産業・職業へのキャリアチェンジの支援
4.グローバル人材の採用・就業支援
5.人材育成による人材サービス産業の高度化

今年度から実際にプロジェクトとして取り組むのは、キャリア形成支援、キャリアチェンジ支援、人材育成の三つで、各プロジェクトで扱う内容および、リーダー・内部メンバーは以下の通りです。

【プロジェクトメンバー】
(1)キャリア形成支援プロジェクト
扱う内容:1.マッチング・就業管理を通じたキャリア形成の支援
リーダー:家中隆理事(日本人材派遣協会会長・東京海上日動キャリアサービス)
サブリーダー:池田匡弥(マンパワーグループ)
メンバー:
<派遣協>秋元次郎(コンサルティングミッション)、河野理英(テンプスタッフ)、井上悦子(アデコ)、内藤素子(リクルートスタッフィング)、伊藤規子(ランスタッド)、森千晶(スタッフサービス)、宮本隆子(ヒューマンリソシア)、関口佳代子(マンパワーグループ)、川渕香代子(リクスートスタッフィング)
<技能協>齋藤正彦(TTM)、和田朋之(平山)

(2)キャリアチェンジプロジェクト
扱う内容:2.採用・就業における「年齢の壁」の克服/3.異なる産業・職業へのキャリアチェンジの支援
リーダー:高橋広敏副理事長(日本人材派遣協会副会長・インテリジェンス)
メンバー:
<全求協>鈴木孝二(エンジャパン)
<技能協>青木秀登理事(ランスタッド)
<人材協>美濃啓貴(インテリジェンス)、藤田克也(リクルートキャリアコンサルティング)

(3)人材育成プロジェクト
扱う内容:5.人材育成による人材サービス産業の高度化
リーダー:清水竜一理事(日本生産技能労務協会会長・日総工産)
サブリーダー:池田匡弥(マンパワーグループ)
メンバー:
<全求協>比留間 洋(アイデム)
<派遣協>井上 守(ランスタッド)
<技能協>谷中 徹(日総工産)
<人材協>糸川 俊(インテグリティ)

「4.グローバル人材の採用・就業支援」は、今年度は扱わず、まずは人材協で検討したのち、本協議会で取り扱うかどうかを決定することになっていますので、ここでは割愛します。

<キャリア形成支援プロジェクト>
派遣・請負社員に対する「評価方法」を構築し、「能力開発」と「処遇の改善」を推進

では、各々の具体的な内容、まずは(1)キャリア形成支援プロジェクトの内容を教えてください。

このプロジェクトの大前提は、有期雇用者のなかでも「派遣」と「請負」というスタイルで働いている人のキャリア形成支援から始めることです。というのは、この二つの雇用形態では、雇用機会の創出とマッチングだけでなく、雇用管理も行われているからです。

プロジェクトで取り組むのは、「能力開発」と「処遇の改善」です。派遣社員を例に挙げますと、契約期間が終わると、再契約して同じ職場で働く人もいれば、別の職場で働く人もいます。また、派遣元が変わる人もいます。就業先や雇用先が変わるなか、どのように仕事をしていたのか。その成果や、身につけた能力などについて、派遣会社がどこまで把握し、評価しているかというと、不十分な面もあるといわざるを得ません。処遇についても同様で、きちんとした評価の仕組みがあれば、それが自ずと処遇の改善につながるでしょう。

イメージとしては、派遣社員がどこで働こうと、職種が変わろうと、公平な視点から過去の評価が一覧できるようなシステムがあれば、と思ってはいますが、現段階では、まずは派遣会社が派遣社員をどのように評価しているのか、実態調査を行う予定です。ただしそれには、調査方法を検討し、調査後には何がボトルネックなのかを見極め、派遣先企業にどうしたら派遣社員を評価するための協力を取り付けられるかを考えていかなくてはいけないでしょう。

<キャリアチェンジプロジェクト>
サービス経済化が進むなか、ミドル層のスムーズなキャリアチェンジのメソッドを研究

次に、(2)キャリアチェンジプロジェクトについてご説明ください。

二つの視点から考える必要があります。一つ目は、今後の就業構造を考えた場合、ミドル層がボリュームゾーンになることにどう対処するのかという視点です。そして二つ目。業種別に見たときに、今後は製造・建築業の就業者が減少し、成長産業と呼ばれる医療・介護や新エネルギーなどのサービス業において人材の需要が増えるということです。

■労働者における年齢構成比率の変化
■産業別の就業者数推移

※出所:人材サービス産業の近未来を考える会『2020年の労働市場と人材サービス産業の役割』

この二つの視点で振り返ると、私どもが今まで、ミドルの求職者の異業種・異職種へのキャリアチェンジに対して、十分な価値を提供できていなかった面もあるかと思います。この4業界が就業機会を作っているボリュームゾーンは若年層ですし、同業種・同職種、異業種・同職種へのキャリアチェンジの支援がメイン。ミドル層の建築・製造業からサービス業へのキャリアチェンジなどについては、私どもはまだ十分なケイパビリティを持っていないのです。

ただ、今後の労働市場を考えたとき、このキャリアチェンジがスムーズに行われるかどうかは、産業の生産性に大きくかかわります。そこで、このキャリアチェンジをいかにスムーズに行うかという課題に取り組むべく立ち上げたのが、このプロジェクトです。

先ほど、私どもは、ミドル層への就業機会創出についてのケイパビリティが十分ではなかったと申し上げましたが、実際にはこれまでも、紹介事業や再就職支援という形で、ミドル層のキャリアチェンジのお手伝いをしてきています。そこで、このプロジェクトでは、過去の事例からキャリアチェンジの可能性やパターンなどを分析する帰納法的アプローチで調査を進める予定です。

「Aの能力を持っている人は、3ヵ月もしくは半年くらいOJTを受ければ、Bのような仕事ができる」といったセオリーや、タスクを進めていくに当たっての、態度や志向、コンピテンシーが、需要側の求める人物像にどうアジャストするのかといったメソッドを作りたいと考えています。「転用可能性」のパターン化とも言えるかもしれません。

<人材育成プロジェクト>
今後の労働力を担う有期雇用者の活用促進のため、
人材サービス産業従事者に対する教育を検討

(1)キャリア形成支援(2)キャリアチェンジともに難易度が高そうですね。実現するかどうかは、人材サービス産業に携わる皆さま一人ひとりの力にかかっているのではないでしょうか。

そのために(3)人材育成プロジェクトでは、いかに人材サービス産業に携わる人材を教育していくかという課題に取り組みます。私たちが直近で迎える大きな課題の一つは、ミドル層求職者のサービス業へのキャリアチェンジ促進です。そういう課題に対応できる人材を育成していきたい。紹介事業や再就職支援会社の実態調査を元に「パターン化」「メソッド化」して、どのようにマッチングに昇華させるかが鍵だと考えています。

ミドルエイジとなった人たちを新たな産業とマッチングさせるために、何か具体的な施策はお持ちですか。

これから研究していくところですので、成果を随時発表していきたいと思っています。「業界研究」や「職種の見極め」をしっかり行うことなどで結果は随分変わってくるのではないでしょうか。

たとえば、リーマンショック時に、製造業から介護業界へ転職したミドル層が多く見られました。全く異なる仕事だと思われるでしょうが、介護事業所でも、募集している職種はケアマネジャーやヘルパーだけではないのです。場合によってはマネジャークラスの人材募集もあります。

ですから、私どもとしては、必ずしも求職者個人に寄り添ったキャリアカウンセリング的な能力だけではなく、クライアント(求人企業)の仕事を細分化して、それを見極める能力を磨く必要もあると考えています。

ここで、人材サービス産業が高度化する必要性の背景について、さらに一歩踏み込んで考えておきたいと思います。人材サービス産業従事者の育成は、有期雇用者のキャリア形成支援・キャリアチェンジといったことだけでなく、「人的資源の有効活用」「経済の活性化」にも大きく関わってきます。一層激化する国際競争のなかでは、「人的資源の有効活用」が欠かせません。

また、多様な就業機会を提供することにより、女性や高齢者の就業機会が増えれば、「社会保障費の抑制」にもなりますし、「世帯収入増加による内需喚起」も期待でき、財政赤字の軽減にも繋がるでしょう。

そのためにも、私どもは、個人が将来に展望を持つことができ、企業の競争力も向上するよう、企業が必要とする領域や、成長分野へのキャリア転換を促すために、「企業の人材活用のパートナー」として、また、「個人のキャリア形成のパートナー」として、採用や転職ニーズの発生時点でのマッチングだけでなく、中長期的な支援を行わなければならないと考えています。

最後に、今後のスケジュールなどをお教えください。

課題解決に関するアクションプランはこれからというところですが、一般社団法人として法人化する10月には具体的なことを発表する予定です。ただ、これらの課題は私どもだけでなく、企業も、働く方自身も、労働行政も一丸となって取り組んでいかなければいけない問題です。

今のような状況が続けば、日本の産業の生産性は低いものになってしまいます。そうならないためにも、これからの日本の労働市場を大きく担う人材サービス産業から、アクションを起こしていきたいと考えています。

「人材サービス産業協議会」発足の背景や、各プロジェクトの概要がわかりました。10月1日の法人化を楽しみにしています。本日はありがとうございました。

(取材は2012年8月10日、東京・千代田区の株式会社リクルートにて)

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「HRペディア「人事辞典」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

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