『ビジネスガイド』提携

定昇「廃止・縮小」を行うとどうなる?
中小企業における「定期昇給見直し」の考え方と実務上の留意点【後編】
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特定社会保険労務士 増山 正紀

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(2)事例に基づく定期昇給見直しの具体的手順

「中小企業における定期昇給の実情」を申し上げると、大企業に比較して経営の安定感に欠けるところがあるため、「定期昇給」という言葉自体が使用されるケースが少ないように感じます。また「昇給あり」となっていても、実際のところは不定期昇給のところが多いようです。この事例は先ほど述べた「定期昇給の見直し」の方向性として「定期昇給の縮小」を選択したケースに該当し、その一環として昇・降給表の作成と昇降可能な定期昇給制度への見直しを行うことにしたものです。

ここで、従業員に安心感を持たせ、またモチベーションを上げていきたいと考えていたある中小企業(情報通信小売業・従業員数70名)の例を具体的に取り上げながら、定期昇給の見直し手順をみていきます。

まず、定期昇給の見直しに着手するにあたり、これまでの総合決定給から職能給1本に変更しました。さらに、従来の評価のない定期昇給から、人事考課結果による査定昇給と昇格昇給の併用により、定期昇給を行うこととしました。その際、各等級の賃金表における上限金額の設定と厳格な運用を行うとともに、経営数値が厳しくなった場合の定期昇給のあり方も併せて検討し柔軟に対応できるものとしました。いわゆる昇給も降給もあるという「賃金の改定」へと変更したのです。

具体的には、職能資格等級を6区分設定し、それに伴う職能給1本による賃金表を作成し、それに査定昇給、昇格昇給の仕組みを導入しました。一般職と管理職層では定期昇給の方法を異なるものとし、一般職は定期昇給を計画的に実施し、ある一定水準の賃金まで到達できるような制度設計にしました。

次に、経営が厳しくなったときの定期昇給を検討する中で、図表2のような「昇降給表」の設定を行いました。ただし、実施の前提として、従業員に会社の経営数値を公開することが必要となります。

図表2は一般職用で、管理職層のものは、もう少し絞り込んだ号俸適用になります。

制度の改定にあたり、従業員向けの説明会を開催し、この定期昇給ルールへと変更することについて「現在の社会経済情勢を考えれば昇給だけでなく、時には降給もある弾力的な賃金制度にしていかなければならない」と必要性を十分説明しながら進めた結果、理解してもらうことができました。

図表2 一般職用昇降給表(段階号棒表に当てはめた場合)

図表2 一般職用昇降給表(段階号棒表に当てはめた場合)

※ここで使用する利益は経常利益が一番妥当であるが、それが無理であれば粗利益等を使用しても可。さらにこの表以外にも、細かく区分することは可能。

次に、賃金規程の見直しを行いました。この会社では昇給に関する条文が次のように規定されていました。

第○条 昇給は、原則として毎年○月○日をもって基本給について行うものとする。ただし、会社の業績の著しい低下その他のやむを得ない事由がある場合にはこの限りではない。

就業規則は、企業と従業員との約束にあたりますので、改定前の内容では従業員に対して毎年の昇給を約束することにもなりかねません。そこで、昇給と降給の両方に対応できるよう、次のように変更しました。

第○条 賃金の改定(昇給および降給)は、原則として毎年○月○日に行う。ただし、会社業績の著しい低下その他やむを得ない事由がある場合には賃金改定の時期を変更し、または賃金改定を行わないことがある。

従来の規定においても、具体的な昇給基準を定めていたわけではありませんので、定期昇給実施義務を約束したことにはなりませんが、従業員の側は期待感を持ってしまいます。そこで会社としては履行可能な約束をすることにより、従業員に安心感を与えなければなりませんので「賃金の改定」というルール化を図ったのです。

さらにここで重要なことは、高い精度の人事考課制度を整備・導入し、公正な運用を行うことでした。つまり、業績あるいは従業員の勤務成績次第では従業員にとって不利益となる降給が行われる制度へと改定されることから、その合理的根拠となる人事考課制度の整備導入と運用が必要不可欠となり、きちんと対処することにしました。

従業員の労働条件の中でも、賃金は特に重要な項目でもあり、トラブル防止への対処は大事なことです。ここは慎重の上にも慎重に対応すべきことを、心しておくことが必要だと思います。


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