『ビジネスガイド』提携

私傷病により通院する労働者のための
「治療休暇制度」導入の実務 (1/4ページ)

一般社団法人CSRプロジェクト
近藤 明美(特定社会保険労務士) 桜井 なおみ

ビジネスガイド photo『ビジネスガイド』は、昭和40年5月創刊の労働・社会保険の官庁手続、人事労務の法律実務を中心とした月刊誌(毎月10日発売)です。企業の総務・人事・労務担当者や社会保険労務士等を読者対象とし、労基法・労災保険・雇用保険・健康保険・公的年金にまつわる手続実務、助成金の改正内容と申請手続、法改正に対応した就業規則の見直し方、労働関係裁判例の実務への影響、人事・賃金制度の構築等について、最新かつ正確な情報をもとに解説しています。ここでは、同誌のご協力により、2011年10月号の記事「私傷病により通院する労働者のための『治療休暇制度』導入の実務」を掲載します。
『ビジネスガイド』の詳細は日本法令ホームページへ。
こんどう・あけみ ● 特定社会保険労務士。一般社団法人CSRプロジェクト代表理事。株式会社KSR取締役。2008年に近藤社会保険労務士事務所開設。自らもがん経験者である社会保険労務士として、2009年より桜井なおみ氏のがん経験者・家族支援活動に参加。現在、がんと就労問題に取り組み、働き盛りのがん経験者や企業からの相談を受けている。著書「がんと一緒に働こう!必携CSRハンドブック」(共著、合同出版、2010)。

さくらい・なおみ ● 一般社団法人CSRプロジェクト理事、NPO法人HOPEプロジェクト理事長、キャンサーソリューションズ(株)代表取締役社長。技術士、産業カウンセラー。2004年夏、30代でがんの診断を受ける。その後、自らのがん経験や社会経験から小児がん経験者や働き盛りのがん経験者支援の必要性を感じ、2005年からがん経験者・家族支援活動を開始。設立1年後を契機にNPO法人化、現在に至る。2007年には、東京大学医療政策人材養成講座に参加。筆頭研究者として「がん患者の就労・雇用支援に関する提言」を発表。以来、一貫してがんと就労問題に取り組む。

医療技術の進歩により治療形態が入院から通院へシフトすると、通院時間を確保しながら柔軟な働き方ができる職場環境づくりへの対応が、企業に求められます。

そこで、本記事では、長期通院治療の必要な疾患であり、今や日本人の2人に1人が罹患するがんという病気を念頭におき、労務管理の観点からも有効な制度となりうる「治療休暇制度」について、導入のメリットと運用の実務について検討します。

1. 「治療休暇制度」とは何か

(1)「治療休暇制度」とは

「治療休暇制度」とは、長期的かつ定期的に通院治療が必要な病気を罹患している従業員が、所定労働日に治療を行うために利用できる休暇制度です。がんなど長期間の治療や経過観察を要する病気に罹患している従業員にとって、仕事を続けながらいかに通院時間を確保するかが大きな問題になります。この問題を解決し、治療と仕事の両立を支援する制度が治療休暇制度です。

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現在、従業員が私傷病により労務不能となった場合、「私傷病休職制度」、「年次有給休暇」で対応しているケースが多く見られます。私傷病休職制度は、長期間の欠勤が生じた場合に一定期間解雇を猶予することにより雇用を継続する制度で、例えば入院治療などによる長期欠勤の場合に利用されます。しかし、一般的な私傷病休職制度は、定期的な通院治療での利用は認められません。

また、年次有給休暇は、労働者の疲労回復、健康の維持・増進、その他労働者の福祉向上を図る目的で利用される制度です。年次有給休暇を取得して通院することはもちろん可能ですが、制度目的からは通院のために利用するというのは望ましいとは言えず、通院頻度によっては年次有給休暇をすべて消化してしまい、欠勤が生じて解雇事由に該当してしまうこともあり得ます。

治療休暇制度は、私傷病休職制度や年次有給休暇で対応しきれないケースにおいて、多様で柔軟な働き方を可能にする制度と言えますが、法定の休暇制度ではありませんので、従業員の私傷病に対し、どこまで企業が支援するのかは、各企業の理念や体力に左右されることも事実です。しかしながら、病気に罹患したことでその従業員の今までの職業経験や職務能力がリセットされるわけではありません。柔軟に労働日や労働時間の調整ができれば、個人差はあるもののパフォーマンス自体を低下させることなく、企業への貢献度を維持することができるでしょう。

(2)導入が求められる背景・状況 ~日本のがんと就労の現状~

医療の進歩に伴いがん治療の外来化が進み、「がん治療をしながら、どのように働くか」「治療後の人生をどう生きるか」という長期的なフォローや、医療費の高騰化による治療中の経済的な負担や治療後の生活保障が問題になっています。

がんは日本人の2人に1人が罹患する病気です。2002年のがん統計によると、患者の約4人に1人は20~50代になっています。がんは高齢者だけではなく、働き盛りの病気でもあるわけです。

働き盛りの人のがん罹患は、社会、あるいは家庭において中心的な世代になることから、広範に影響を及ぼします。特に就労可能年齢でがん患者が職を失うことは社会的アイデンティティや生きがいの喪失にもつながり、人生の質(QOL)が著しく損なわれることは憂慮すべき課題です。また、生産人口の減少が見込まれるわが国におけるこれらの労働力の損失は、税収面にも影響を及ぼすことから、大きな社会問題になってくることでしょう。

2008年に私たちが実施したがん罹患と就労問題に関する調査結果でも(N=403)、3人に1人が罹患前後に退職や転職をしていることがわかっています。2010年の調査結果も同様で、がん罹患が就労継続に深刻な影響を及ぼしている実態が明らかになりました。

2008年の調査では、「がん患者が就労し続けるために必要なものは何か」との問いに400件近い声が寄せられました。内訳としては、企業等の雇用側に対する要望が多く、がんと付き合いながら仕事ができるよう労働時間に柔軟性を持たせることや、休暇を取得しやすい労働環境づくりを求める声が目立ちました。また、行政に対しても、雇用側によるがん患者の就労を支援しやすい社会的な制度・システムの整備を後押しするよう要望する声が多くありました。

寄せられた声の一部を参考までに下記に抜粋して掲げます。

私たちはこうした声を受け、2008年に提言を発表し、この中でも治療休暇制度に関連しては、「がん経験者の就労・雇用支援に関する7つの提言」を発表しました。

■ がん罹患と就労問題に対する調査結果

雇用側に対する主な要望 行政に対する主な要望
・抗がん剤治療等の際に取得できる休暇制度が必要 ・治療のための休職、短縮勤務が法的に保護されていたらよいと思う
・雇用や健康に対する相談窓口、専門のカウンセラーを置いてほしい ・中小企業ではなかなか難しいので国や地方自治体の援助が必要だと思う
・治療中がん患者のための病欠の制度 ・障害者雇用促進条例のように、がん患者の雇用促進条例が必要
・職場内で、病気に対する理解と配慮があること ・がん患者を雇用する企業に対して、補助金・援助金等を支給
・育児休暇が取れるように、がんになっても治療休暇が取れればいいなと思う ・社会全般にがん疾病の認知度を向上する対策
・報酬を下げても、時短や通院休暇が定期的に取れるような療養中勤務体制制度があるとよい ・障害者雇用率の算定に含める等、法的整備が必要
・柔軟な雇用形態(契約社員等に希望転換。治療が一段落した際、再度正社員へ) ・休暇を取得しやすい労働環境、企業思想づくり
・がんでも入社時に差別されない制度、また健康告知をしなくてよい制度 ・治療しながら仕事ができるよう、ワークシェアなど労働時間に柔軟性を持たせること
  ・長期通院治療が必要な疾患については通院時間を有給認定にすることや、働く権利を守る制度を包括した「治療休暇制度」の確立、「がん患者雇用促進法」の制定等を国が後押しをし、患者の「生きる」意欲を社会全体で支援していく必要がある

■ 要望が多かった主なテーマ

1 休暇・休職 73件
2 病気への理解 59件
3 労働時間 54件
4 収入・医療費 26件
5 行政の支援体制 19件
6 就職・再就職 16件

■ がん経験者の就労・雇用支援に関する7つの提言

提言1 定期的な通院が必要な患者への「治療休暇制度(有給休暇以外に通院時間を有給認定にするなど)」の立案
提言2 病に対する社会・職場の理解促進、医療者(主治医・産業医)、人事とのパートナーシップの構築
提言3 体験者がおかれた体力や治療計画に見合った「緩やかな就労環境・機会」の提供
提言4 「がん経験者の雇用促進条例」など行政による就労支援への後押し
提言5 よりよい医療の提供へ向けた「患者体験」の活用、体験者教育の必要性
提言6 がん体験者就労に対する社会的研究の推進、研究への当事者参画の必要性
提言7 働き続けるための地域における総合的なピア・グループ活動への支援

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