『ビジネスガイド』提携

「配転命令権」行使の有効性判断が必要
人事異動に応じず、従来の職場に出勤する社員への対応 (1/6ページ)

ジョーンズ・デイ法律事務所 弁護士 山田 亨

ビジネスガイド photo『ビジネスガイド』は、昭和40年5月創刊の労働・社会保険の官庁手続、人事労務の法律実務を中心とした月刊誌(毎月10日発売)です。企業の総務・人事・労務担当者や社会保険労務士等を読者対象とし、労基法・労災保険・雇用保険・健康保険・公的年金にまつわる手続実務、助成金の改正内容と申請手続、法改正に対応した就業規則の見直し方、労働関係裁判例の実務への影響、人事・賃金制度の構築等について、最新かつ正確な情報をもとに解説しています。ここでは、同誌のご協力により、2011年6月号の記事「人事異動に応じず、従来の職場に出勤する社員への対応」を掲載します。
『ビジネスガイド』の詳細は日本法令ホームページへ。
やまだ・とおる ● 1990年東京大学法学部卒。1992年司法研修所修了(44期)、弁護士登録(第一東弁護士会)。1997年ハーバード・ロースクールLL.M.修了(フルブライト奨学生)。1998年ニューヨーク州弁護士登録。現在、外国法共同事業ジョーンズ・デイ法律事務所パートナー。著書に「有限責任事業組合(LLP)の法律と登記」(日本法令・共著)等がある。

今年初め、地方公務員が異動に応じず、停職処分を受けるまで従来の職場に出勤し、給与や賞与の支給を受け続けたという報道が話題になりました。

一般的に、使用者には、事業を効率的に運営し、人材を適材適所に配置するために、広範な人事権があると解されています。社員を異動(文脈によって出向、転籍、昇格、降格等を含めて意味することがありますが、本稿では、労働法上の配転、すなわち配置転換や転勤に絞って検討します)させるのも人事権の一部であり、したがって、正当な人事権の行使である限り、社員はこれに従う義務があります。

しかし、使用者側が正当と考える配転であっても、社員は様々な理由からその配転の不当性を主張し、配転に応じないことがあります。本稿では、人事権の発動としての配転命令権の行使があったにもかかわらず、これに従わない場合の対応について説明します。

1. 配転命令の有効性

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社員への対応を考える前提として、当該社員に対してなされた配転命令の有効性を確認する必要があります。配転命令が無効であれば、社員が命令に従わないのは当然であり、命令に従わせるための措置をとったとしても、その措置自体が違法、無効となります。

(1) 配転命令権の根拠

配転命令権の行使が正当な人事権の行使であるためには、まず、労働契約上、会社の配転命令権が認められていなければなりません。

したがって、労働協約や就業規則に会社の配転命令権が定められているかどうかを確認する必要があります。

(2) 勤務地・職種の限定

次に、就業規則等で配転命令権が規定されていたとしても、当該社員との労働契約において、勤務地や職種を限定する合意があり、そのため配転命令権が否定または限定されていることがあります。

したがって、労働契約上、勤務地や職種が限定されていないかどうかを確認する必要があります。ただ、実務的には、この確認は容易ではありません。

なぜなら、通常は、採用時に特定の勤務地における特定の職務について需要があることを前提として、その特定の職務への適性を面接等を通じて測定したうえで採用し、配転については特段の説明もせず単に就業規則の規定に委ねていることが多く、勤務地や職種が限定されていないことを明示的に確認することは少ないからです。このため、訴訟においては、

  1. 採用時の会社からの説明
  2. 同様の態様で採用された社員が過去に配転された例の有無や多寡
  3. 採用時の職務を遂行するための特殊技能の要否と当該社員が当該特殊技能を有しているか否か
  4. 採用後の待遇

等の間接事実の積上げによって、配転命令権の有無や範囲に関する労働契約上の意思を推認することになります。

ただし、平成20年3月1日より労働契約法が施行された現在においては、同法4条1項に定める「労働条件及び労働契約の内容について、労働者の理解を深めるようにする」義務や、同2項に定める「労働契約の内容について、できる限り書面により確認する」義務があることに留意する必要があります。

会社がこれらの義務に違反し、社員が勤務地や職種について限定されていると理解したとしても無理からぬ事情が認められる場合は、会社に不利な(配転命令権を限定的に解する)判断が導かれる可能性があります。


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