『ビジネスガイド』提携

今春から改正健康増進法が全面施行!
企業がどこまでできる!?仕事中・私生活上の喫煙制限

弁護士

岡本 光樹(岡本総合法律事務所)

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7 非喫煙者に限定した求人・採用

使用者は原則として「採用の自由」を有しています。どのような労働者を雇い入れるかは企業の業績を左右し得る重要な決定であるため、原則として使用者に包括的に委ねられるべきとされています(菅野和夫『労働法』、三菱樹脂事件・最高裁大法廷判決昭和48年12月12日参照)。

例外的に使用者の採用の自由が制限されるのは、障害者雇用促進法、男女雇用機会均等法、労働組合法、職業安定法、雇用対策法などによって規定されている場合です。求職者の個人情報の収集については、職業安定法5条の4(平成11年法改正により追加)および、平成11年11月17日労働省告示第141号などに定めがあります。「人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項」、「思想及び信条」ならびに「労働組合への加入状況」についての個人情報(いわゆるセンシティブ・データ)の収集を原則として禁止しています。すなわち、本人の適性や能力に関係のない事柄で社会的差別を招く事項や、基本的人権として尊重すべき権利については、採用の自由が規制される方向にあるといえます。

しかし、喫煙については、センシティブ・データには該当せず、職業安定法による個人情報収集の制限の対象外と考えられます。上記最高裁判決に則って、応募者の喫煙の有無などについて申告を求めることが許されると考えられます。

実際に、さまざまな業種において、多くの企業が「喫煙者不採用」の方針を明記・公表しています。その理由として、①労働者の作業効率、②タバコの臭いが染み付いている労働者は接客相手や他従業員の気分を害する、③施設の利用効率の低下(喫煙スペースの節約)・資産の劣化、④喫煙者労働者の離席による非喫煙者労働者の負担増(電話対応その他)、⑤非喫煙者からの喫煙者に対する不公平感、⑥企業競争力、などが挙げられています。

こうした理由からも、使用者側が応募者の喫煙の有無を理由に雇入れを拒むことは、「差別」とは言えず、むしろ「合理的な理由」に基づくものと評価されます。

【参考2】就業規則の規定例

◇MSD株式会社の就業規則(実例)
第3条 (服務規律)
従業員は、正常かつ安全に就業するため、次の各号を守らなければならない。
(略)
(12)就業時間中は所定の休憩時間を除き所在を問わず喫煙しないこと、また全事業所敷地内では会社が許可した所定の場所を除き終日喫煙しないこと

◇規定例(案)(厚生労働省「モデル就業規則」に禁煙に関する条項を加えたもの)
(服務規律)
第 10条 労働者は、職務上の責任を自覚し、誠実に職務を遂行するとともに、会社の指示命令に従い、職務能率の向上及び職場秩序の維持に努めなければならない。

(遵守事項・禁止事項)
第11条 労働者は、以下の事項を守らなければならない。

  • 許可なく職務以外の目的で会社の施設、物品等を使用しないこと。
  • 勤務中は職務に専念し、正当な理由なく勤務場所を離れないこと。
  • 会社の名誉や信用を損なう行為をしないこと。
  • 酒気を帯びて就業しないこと。
  • 一斉休憩時間(昼食時間)を除き、就業時間中に喫煙をしないこと。休憩時間又は就業時間外に喫煙する場合においても、望まない受動喫煙(息又は衣服の残留臭による場合を含む。)を生じさせることがないよう配慮すること。
  • 次の場所においては、就業時間内外を問わず喫煙をしないこと。
    • 会社が所有又は入居している建物内及び敷地内
    • 会社の顧客又は取引先の建物内及び敷地内
    • 会社と最寄駅の間で通勤のために通常利用する経路上
  • 会社が主催する会食時に喫煙をしないこと。
  • その他労働者としてふさわしくない行為をしないこと。

(あらゆるハラスメントの禁止)
第 15条 第〇条から前条までに規定するもの(パワーハラスメント・セクシュアルハラスメント・マタニティハラスメント)のほか、性的指向・性自認に関する言動によるもの又はスモークハラスメントなど職場におけるあらゆるハラスメントにより、他の労働者の就業環境を害するようなことをしてはならない。

(安全衛生)
第56条
  1. 会社は、労働者の安全衛生の確保及び改善を図り、快適な職場の形成のために必要な措置を講ずる。
  2. (略)
  3. 労働者は安全衛生の確保のため、特に下記の事項を遵守しなければならない。
  • 20歳未満の者は、喫煙可能な場所には立ち入らないこと。
『ビジネスガイド』は、昭和40年5月創刊の労働・社会保険の官庁手続、人事労務の法律実務を中心とした月刊誌(毎月10日発売)です。企業の総務・人事・労務担当者や社会保険労務士などを読者対象とし、労基法・労災保険・雇用保険・健康保険・公的年金にまつわる手続実務、助成金の改正内容と申請手続、法改正に対応した就業規則の見直し方、労働関係裁判例の実務への影響、人事・賃金制度の構築などについて、最新かつ正確な情報を基に解説しています。ここでは、同誌のご協力により、2019年12月号の記事「来春から改正健康増進法が全面施行! 企業がどこまでできる!? 仕事中・私生活上の喫煙制限」を掲載します。『ビジネスガイド』の詳細は、日本法令ホームページへ。

【執筆者略歴】
●岡本 光樹(おかもと こうき)
2005年東京大学法学部卒業、2006年弁護士登録。日本有数の法律事務所を経て、2011年9月に岡本総合法律事務所を開業。ビジネスから個人の悩みまで幅広く扱う。労働事件に関して労働者側・使用者側いずれも受任。2017年7月に東京都議会議員に就任。第二東京弁護士会 人権擁護委員会 副委員長・受動喫煙防止部会長。日本禁煙学会理事。


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