『ビジネスガイド』提携

有所見率は53.2%!〔平成26年〕ストレスチェックとの違いは?
健康診断での有所見者に対する対応

労働衛生コンサルタント 村木 宏吉

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3 再検査等の費用負担

ところで、前述の(2)に関連して平成8年9月13日付け基発第566号通達では、「健康診断後の再検査又は精密検査は、当該(編注=(2)でいうところの)健康診断には含まれないことから、本条は、当該再検査又は精密検査の結果に基づき、医師又は歯科医師の意見を聴くことを事業者に義務付けるものではないが、再検査又は精密検査の受診は、疾病の早期発見、その後の健康管理等に資することから、事業場でのその取扱いについて、再検査又は精密検査の結果に基づく医師等の意見の聴取を含め、労使が協議して定めることが望ましいこと。」としています。

では、これらの費用を全額自己負担とした場合、労働者は身銭を切って受診するでしょうか。多くの労働者は、すべての費用が自己負担となれば、再検査等を受けないあるいは嫌がることが想定されます。

これを防ぐためには、全額とまでは言わなくとも、半額とか6割を会社負担とするなどの対応が求められます。もちろん、万全の労務提供を受けるために、全額会社で負担するとの考え方もあるでしょう。後述する受診拒否の場合に懲戒処分することまでを考えると、全額本人負担としたうえで懲戒処分を行うのは無理と言わざるを得ません。健康保険組合からの補助も検討すべきでしょう。

なお、特殊健康診断の場合には、有機溶剤中毒予防規則等の各規則において、再検査等の実施が義務付けられており、その費用等は全額会社負担となります。一般の健康診断が基本的な健康管理であるのに対し、特殊健康診断は当該有害業務に関して実施しなければならないものであるからです。加えて、病者の就業禁止は、安衛則、鉛中毒予防規則、四アルキル鉛中毒予防規則と高気圧作業安全衛生規則に規定がありますので、有所見者の早期把握について十分な配慮が必要です。

4 異常所見があった場合の受診・治療の義務

労働契約は、「労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。」(労働契約法6条)ものです。当然、当該労働契約の本旨に従った労務提供の義務が労働者側にあり、使用者(事業者)に賃金支払義務があります。

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そのためには、健康診断の受診義務と併せ、労働者には治療が必要な場合の治療義務があります。仮に労働者がより多くの残業をして賃金を稼ぎたいとしても、前述の4項目(高血圧、高血糖値、高コレステロール値、肥満)に複数所見があるようでは、そのまま残業等をさせるわけにはいきません。脳・心臓疾患が発症したとき、会社への損害賠償請求に通じるからです。特殊健康診断の場合の有所見者は、それ以上悪化させないことが重要ですから、より一層慎重に扱わざるを得ません。

また、例えばてんかんは、毎日きちんと薬を飲むことで発作を抑えることができます。薬を飲み忘れたときに意識消失などを起こすのです。単身者は服薬の管理がおろそかになりがちですので、特に注意が必要です。高血圧も、現在ではほとんど副作用のない降圧剤が処方されますから、脳・心臓疾患の発症を予防するためにも血圧のコントロールは重要です。

脳・心臓疾患は、長時間労働がなくても、高血圧や糖尿病についてまったく治療をしなければ、ある日突然発症します。時間と場所を問いませんから、重大な交通事故をはじめ、建設工事現場や工場などでの大きな災害につながりかねないと言えます。当然、就業規則には、「労働者の健康管理義務」を定めておくこととなります。喫煙者は非喫煙者よりはるかに動脈硬化が生じやすく、特にこの点の注意が必要です。昨年6月から施行された受動喫煙防止対策は、動脈硬化の防止対策でもあるのです。

これと併せて就業規則等への規定で検討すべきなのは、感染症に関する事項です。隣国で猛威を振るったMERS(中東呼吸器症候群)、デング熱、ノロウイルス、インフルエンザやジカ熱等が報道されていますが、本人や家族に発症したときの取扱いについて規定しておくべきでしょう。

なお、デング熱は蚊が媒介し、ヒトからヒトへの感染はないとされています。また、同じく蚊が媒介するジカ熱は、基本的には、ヒトからヒトに直接感染するような病気ではないですが、稀にはそのようなケースがあるとされています。

5 二次健康診断等給付について

健康診断実施後は、一次健診の結果が労災保険の二次健康診断等給付に該当しないかのチェックをしなければなりません。

労災保険法26条、27条において、二次健康診断等給付制度が定められ、労災保険法施行規則18条の16から18条の19までにその細目が定められています。

これは、脳・心臓疾患の予防のため、前述の4項目すべてに異常の所見が認められる者であって治療を受けていないものに、労災保険給付として二次健康診断と医師による面接指導を現物給付する制度です。

これは、予防の観点での給付であることから、受給しても労災保険料のメリット制には関係しないこととされています。

一次健康診断受診結果を踏まえ、二次健康診断等給付を受給申請すべきかどうかを判断しなければなりません。前述の4項目すべてではなくても、産業医が必要と認めた場合も対象になります。

なお、二次健康診断等給付を受けられる診療機関は、通常の労災指定病院とは異なり、二次健康診断等給付指定病院でのみ受診できますので、注意が必要です。

6 受診指示の記録

度々健康診断を受けないなど受診を拒否していて、のちに重大な健康障害が本人に発生した場合、どのように対応すべきでしょうか。

問題となるのは、脳・心臓疾患が典型的です。原則として私病とはいえ、発症したときの状況によっては大きな社会問題ともなりかねません。

前述した労務提供の受領拒否も考慮しなければなりませんが、まずは、その受診指示の記録をどう残すかです。

業務命令として受診を指示するためには、受診指示書などの文書で指示をし、その会社控えに当該労働者のサインと受領年月日を書かせることが必要です。労働者が自筆で名前を書けば、押印は不要です。やってはいけないのは、ワープロで氏名まで記入しておいて押印だけをさせることです。後日、「会社が勝手に作った」と本人に言われかねませんから、自筆で年月日と氏名を書かせるようにしてください。

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タクシー、トラックやバスの運転士などでは、受診拒否の程度と回数などにより乗務させないなどの対応が必要となるでしょう。始業時の点呼のときに、車のキーと運転日報を渡さないという方法が可能です。就業規則または安全衛生管理規程に段階ごとの処分を明記しておく必要があります。

最初は軽微な処分でも、度重なれば懲戒解雇につながることもあり得ますので、場合によっては労働基準法20条の「解雇予告除外認定申請」につながることもあるでしょう。


筆者が公務員のときに実際にあった事案ですが、タクシー運転士が脳・心臓疾患で倒れ、病院に搬送されて死亡しました。周りを巻き込む大きな交通事故にはならなかったのが不幸中の幸いでした。

これが勤務時間数の実態から、業務上の疾病(過労死)として労働基準監督署に認定され、遺族に団体が付いて会社に対する損害賠償訴訟となりました。公判において、採用時の健康診断を受診後、過去3年間計6回の定期健康診断を受診していなかったことが明らかとなり、それが労働者側の落ち度として過失相殺により損害賠償額が減額されました。とはいえ、会社側には予防の観点が必要でした。

また、労働者が受診しないで発症したことにより事故や災害が発生した場合であっても、民法715条により会社側には損害賠償責任があります。ただし、同条3項により当該本人に求償することができます。この点を就業規則で明確にしたうえで研修や教育を実施しておかなければなりません。


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